長方形に対するコーシーの積分定理
R⊂Cを長方形領域とし、fはRの境界および内部で正則であるとする。
このとき、
∫∂Rf(z)dz=0である。
この定理の証明は長くこの先の議論に用いないため、一旦認めて先に進んでも問題ない。
証明は大きく二つのステップに分けて行う。
一つ目のステップでは、正則関数の一次近似を利用して積分の評価を行う。
もう少し詳しく説明しよう。
まずfが正則なので一次関数で近似できる。
一次関数は原始関数を持つため、線積分の値は0である。
よって、長方形が小さければfの積分も小さいことが期待できる。
二つ目のステップでは、最初に与えられた長方形の周での線積分と小さい長方形の周での線積分を結びつける。
線積分の基本的な性質を用いると、長方形を小さな長方形に分割したときそれらの周での線積分を足し合わせると元の長方形の周の線積分の値になることがわかる。
これを利用して大きな長方形の周での積分を小さな長方形の周での積分と結びつける。
では実際に証明しよう。
まずは一つ目のステップとして一次関数による近似を用いて積分値を評価するという議論を行う。
z=aにおいて、f(z)は(a)+f′(a)(z−a)で近似できる。
この近似の意味を正確にすると、任意のϵ>0に対し、あるδ>0が存在して、
∣z−a∣<δならば、
z−af(z)−f(a)−f′(a)(z−a)<ϵ
となる。
この結論部分を
∣f(z)−f(a)−f′(a)(z−a)∣<ϵ∣z−a∣
と変形しておく。
一次関数の閉曲線での線積分が0なので、
∫∂Sf(z)dz=∫∂Sf(z)−f(a)−f′(a)(z−a)dz
は長方形Sに関して無条件に成り立つ。
さらに、線積分の三角不等式を用いると
∣∫∂Sf(z)dz∣=∣∫∂Sf(z)−f(a)−f′(a)(z−a)∣≤∫∂S∣f(z)−f(a)−f′(a)(z−a)∣∣dz∣
となる。
ここでさらにSがaの周りの十分小さな長方形であるとしよう。
すると、上の一次近似が使えて、
∫∂S∣f(z)−f(a)−f′(a)(z−a)∣∣dz∣≤∫∂Sϵ∣z−a∣∣dz∣
と変形できる。
さらに、最後の積分はzがRの周上でaがSの内部であることから、
Sの対角線の長さd(S)を用いて∣z−a∣≤d(S)であり、 L(S)をSの周の長さとすると、
∫∂S∣z−a∣∣dz∣≤∫∂Sd(S)∣dz∣=d(S)L(S)
となる。
この点を改めて整理し、より正確述べると次のようになる。
任意のϵ>0に対してあるδ>0が存在し、長方形Sが∣z−a∣<δに含まれるならば、
∣∫∂Sf(z)dz∣≤ϵd(S)L(S)
となることが証明できた。
ここまでが証明の第一ステップである。
この時点では、Sがϵに依存しているので、右辺でϵ→0の極限をとる、というような操作を行っても意味がない。
そこで次にやることは、大きな長方形での線積分の値を小さな長方形での線積分に結びつけるという、二つ目のステップの議論を行う。
以下では一般に長方形Sの周でのfの線積分値をη(S)と略記する。
つまり、
∫∂Sf(z)dz=η(S)
とする。
この記号を用いると、第一ステップで証明したことは次の通りである。
任意のϵ>0に対してあるδ>0が存在し、長方形Sが∣z−a∣<δに含まれるならば、
∣η(S)∣≤ϵd(S)L(S)
となる。
示すべきことは任意の長方形Rに対してη(R)=0であることである。
長方形Rがあたえられたとしよう。
以下では長方形の縮小列R0,R1,R2,…を以下のように定義する。
まず、R0=Rと定める。
このR0を4つの合同な長方形に分割し、それらをR1,R2,R3,R4と仮に名付ける。
すると、線積分の性質から、
η(R)=η(R1)+η(R2)+η(R3)+η(R4)
が成り立つ。
複素数に対する三角不等式から、
∣η(R)∣≤∣η(R1)∣+∣η(R2)∣+∣η(R3)∣+∣η(R4)∣
となるため、R1からR4のうちの少なくとも一つは
∣η(Ri)∣≥41∣η(R)∣
を満たす。
このRiをR1と定める。
これを同様に繰り返すことで長方形の列Rnを定義する。
つまり、Rnを4つの合同な長方形に分割するとそのうちの少なくとも一つは
∣η(Ri)∣≥41∣η(R)∣
を満たす。
∣η(Rn)∣≥41∣η(Rn−1)∣
が成立するように長方形をどんどん小さくとっていく。
すると、任意のnに対して
∣η(Rn)∣≥4n1∣η(R)∣
が成り立つ。
また、Rn+1はRnと相似でその相似比は1:2だから、d(Rn+1)=21d(Rn),L(Rn+1)=21L(Rn)であり、
d(Rn)=2n1d(R),L(Rn)=2n1L(R)
である。
区間縮小法により、この長方形の列R1,R2,…はある点z∗に収束する。
正確にいうと、あるz∗∈Rが存在して任意のδに対して十分大きなnについてRnは∣z−z∗∣<δに含まれる。
このz∗を前半の議論に用いよう。
ϵ>0とする。
このとき、あるδ>0が存在し、
長方形Sがz∗からの距離δ以内に含まれるならば、
η(S)≤ϵd(S)L(S)
となる。
このδに対して、上のようにRnをとることで、
η(Rn)≤ϵd(Rn)L(Rn)=ϵ4n1d(R)L(R)
となる。
さらに、η(R)とη(Rn)の関係から、
∣η(R)∣≤4n∣η(Rn)∣≤ϵd(R)L(R)
となる。
ここでは、Rに関する条件はなく、左辺はϵに無関係な実数値である。
これが任意のϵ>0に対し成り立つため、∣η(R)∣=0すなわち
∫∂Rf(z)dz=0
であることが証明できた。